「こんにちは。先祖から受け継いできた土地が郊外にあります。広さもあるのですが、固定資産税もほとんどかかっていなかったので空き地になっておりました。しかし、昨今の土地開発で私の所有する土地の地価がどんどん上昇していることが分かりました。交通も整備され住宅地として開発されているのです。次の世代への相続対策も考えてアパートの経営を始めようかと思っています。部屋数が10室以上ある規模のアパート建設を勧められています。税務上メリットがあるとのことでしたが、どんなメリットなのでしょうか?」
「こんにちは。ご質問頂きまして、ありがとうございます。『貸与することができる独立した室数が概ね10以上であること』は、事業規模であると認められる不動産の物件数です。所得税法の基本通達が発出されています。事業規模であると認められる場合のメリットとデメリットを説明しますね。」
(建物の貸付が事業として行われているかどうかの判定)
26-9 建物の貸付けが不動産所得を生ずべき事業として行われているかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定すべきであるが、次に掲げる事実のいずれか一に該当する場合又は賃貸料の収入の状況、貸付資産の管理の状況等からみてこれらの場合に準ずる事情があると認められる場合には、特に反証がない限り、事業として行われているものとする。
(1) 貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること。
(2) 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。
国税庁 所得税法第26条[不動産所得]関係
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/04/02.htm
事業的規模のアパート経営・・・メリット
【1】 青色申告をすれば不動産所得から65万円を控除することができる。
65万円の控除を受けるための条件
1.事業所得、または事業的規模の不動産所得がある
2.1の所得に関連する取引について、複式簿記で記帳している
3.2にもとづいて作成した青色申告決算書(貸借対照表と損益計算書)を添付して確定申告をする
4.期限を守って確定申告を行う
5.現金主義による所得計算の特例を選択していない
6.e-Taxで確定申告を行うか、仕訳帳と総勘定元帳など対象帳簿をついて、電子帳簿保存法が定める「優良な電子帳簿」として保存している
国税庁 No.2072 青色申告特別控除
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2072.htm
「仕訳帳及び総勘定元帳について「優良な電子帳簿」の要件を満たしていない不動産オーナーも多くいらっしゃると思います。e-Taxでの確定申告も普及してきたとはいえ、60%弱の利用率です。(令和3年度国税庁発表普及率)。上記の条件のうち“6.”を満たしていない場合でも55万円の控除を受けることが出来るのですよ。」
【2】 同居親族への給与を必要経費にできる。
青色事業専従者給与として認められる要件は、次のとおりです。
(1)青色事業専従者に支払われた給与であること。
青色事業専従者とは、次の要件のいずれにも該当する人をいいます。
イ 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること。
ロ その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること。
ハ その年を通じて6か月を超える期間(一定の場合には事業に従事することができる期間の2分の1を超える期間)、その青色申告者の営む事業に専ら従事していること。
(2)「青色事業専従者給与に関する届出書」を納税地の所轄税務署長に提出していること。
国税庁 No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2075.htm
「青色事業専従者の給与として認められる金額は「相当と認められる金額」です。労務の従事期間、労務の性質、労務の提供の程度、同種同規模の事業に従事する者の給与の状況や、事業の種類・規模を基準としてそれぞれに判断されます。事業の概況、判例などを考慮し定めていく必要があります。近隣の税理士にご相談ください。」
【3】 回収不能家賃などを必要経費に算入できる。
事業的規模(5棟又は10室) | 確定申告で回収不能の家賃を損失として計上可能 |
事業的規模以外 | 確定申告で回収不能の家賃を収入として計算しなければならない。回収不能が確定してから過去の確定申告を修正し税金還付を受ける |
2 居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業について、その事業の遂行上生じた売掛金、貸付金、前渡金その他これらに準ずる債権の貸倒れその他政令で定める事由により生じた損失の金額は、その者のその損失の生じた日の属する年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する。
所得税法第51条 (資産損失の必要経費算入)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/09/01.htm
【4】 災害等による被害額、建物取壊しの損失額を全額必要経費に算入できる。
事業的規模(5棟又は10室以上) | 他に事業所得や給与所得があれば損益通算をして、それでも引ききれない損失は翌年以降3年間繰越ができる。 |
事業的規模以外 | 不動産所得の範囲内で必要経費に算入できる。損益通算もなく、3年間の繰越もない。 |
「『事業的規模』に該当すると、多くのメリットがあるのですね!建設費が高額になるので躊躇していましたが検討してみる価値は十分にありそうですね!」
「但し、デメリットもあるのですよ。デメリットも十分にご理解頂きたいです。」
事業的規模のアパート経営・・・デメリット
【1】 個人事業税の納税義務者となる。
「個人事業税は青色申告の65万円控除が適用されません。よって、算出した所得金額に65万円を加算します。その後290万円の事業主控除を差し引いて算出します。詳しくは、管轄の都道府県税事務所に確認してくださいね。」
「事業税は、必要経費と認められますか?」
「はい。認められます。」
「290万円の控除があって、そのうえ必要経費と認められるのであれば、それほど憂慮することはないですね。」
【2】 従業員として給与を支払った同居親族に対し、『配偶者控除』『扶養控除』制度が適用できなくなる。
「同居親族を従業員として給与を支払うのであれば、「配偶者控除」「扶養控除」制度の適用を受けることができません。控除されるはずだった金額よりも給与を支払わないと節税効果が薄くなります。」
【3】 『複式簿記』による帳簿管理を行わなければならない。
「『複式簿記』?! 難しそうだなあ。。私にできるんだろうか?やったこともない。」
「収入と支出を事実に基づいて会計法規に則った形式で行うのです。お勉強をしながらであればご自身で行うことが可能です。ですが、確定申告のことを考えると記帳代行業者や税理士に依頼を検討したほうがよろしいように思います。」
『アパート経営』に関してのご相談は、お住いの近隣の税理士に是非ご相談ください。
*上記は例示を基に一般的に想定し得る範囲の作成記事であり、本記事の内容を信頼して行われた、または控えられた行動の結果生じた損失について、いかなる相手に対しても、一切の責任を負いかねます。