新型コロナウイルス感染拡大の影響により、さまざまな業種において売上減少、資金繰りの悪化が深刻化しています。非常に残念なことに、新型コロナ関連での倒産する会社も出てきています。
東京をはじめとする7都府県に発令された緊急事態宣言は、2020年4月17日ついに全国へと拡大しました。緊急事態宣言により外出自粛の動きは強くなり、事業者にとっての状況はますます厳しさを増していく一方です。
今回は新型コロナ問題による売上の急激な減少により、決算を赤字で迎えることになった中小企業を対象に、その赤字の使い道について確認したいと思います。
使い道① 青色欠損金の繰越控除
まず、法人税法上その年(事業年度)の費用が収入を超える場合のその超える部分の金額、つまり赤字の金額のことを欠損金といいます。
青色申告を行う承認を受けている場合には、この欠損金を翌期以後10年間繰り越すことができます(一定の要件あり)。
翌期以降に利益が出た場合に、この繰り越されてくる欠損金と利益を相殺することができます。
次の例のとおり、今期(2020年12月期)500万円の赤字に終わった場合について確認してみます。
※法人税の額については、わかりやすくするために法人税のみ算定し、地方法人税や事業税、法人住民税については省略しています。
(例)12月決算法人(資本金1億円以下の中小法人)
2020年12月期 利益 △500万円 → 法人税 0円
2021年12月期 利益 +△0円 → 法人税 0円 (欠損金の残り500万円)
2022年12月期 利益 +200万円 → 法人税 0円 (欠損金の残り300万円)
2023年12月期 利益 +500万円 → 法人税 45万円 (欠損金の残り0円)
2024年12月期 利益 +500万円 → 法人税 75万円 (欠損金の残り0円)
2020年は利益(所得)がマイナス、また2021年は所得がゼロであるため法人税はかかりません。
2022年は利益が200万円生じていますが、繰り越されてきた赤字と利益が相殺されて所得ゼロとなり法人税もゼロとなります。
2023年は利益が500万円となっていますが、欠損金の残り300万円が利益500万円から控除され、200万円のみに法人税が課税されます。
例に示した最終年度2024年については、欠損金の繰越額がないため、500万円の利益全額について法人税が課税されることになります。
使い道② 青色欠損金の繰戻還付
もう一つの欠損金の使い道が、繰戻還付です。
繰戻還付とは前期は黒字であって法人税を納めていた場合に、その納めた法人税のうち一定の金額の還付を受けることができる制度です。
還付請求できる金額の計算方法は下記のとおりとなります。
(例)12月決算法人(資本金1億円以下の中小法人)
2019年12月期 利益 +800万円 納めた法人税 120万円
2020年12月期 利益 △500万円
還付請求できる金額 120万円×500万円/800万円=75万円
繰戻還付を受けるためには、確定申告書と一緒に還付請求書を提出する必要があります。
そのほか、黒字であった前期と今期いずれも青色申告書を提出することなど、一定の要件があります。なお、還付を受けることができるのは法人税及び地方法人税です。
法人事業税や法人住民税については、①と同様に繰越控除を受けることになります。
どちらを使うのがよいか?
のちのち支払う税金を減らすか、すでに支払った税金を返してもらうか。という違いでお得感でいうと両者に大きな違いはありません。
ポイント
10年間繰越しをしても相殺できる利益がないと、欠損金が使い切れずに終わってしまいます。
一方で、来期以降利益が大きくなりそうな場合で、手元資金の確保が急務でない場合には繰越控除を受けるのもひとつです。
中小法人の場合には利益の800万円までの金額は法人税率が15%となっています。
800万円を超える部分の金額には23.2%の法人税がかかってきます。この税率の差がありますので、繰越控除を受けたほうが金額的に有利になる場合もあります。
新型コロナ感染症緊急経済対策(案)について
2020年4月9日時点でまだ国会で成立しているものではありませんが、欠損金の繰戻還付の特例について新型コロナの感染拡大による経済対策として打ち出されています。
内容としては次の2つです。
- 中小企業だけでなく資本10億円以下の大企業でも繰戻還付を受けることができる。
- 青色申告をしていない法人についても、新型コロナの影響による費用や損失にあたる部分については繰戻還付を受けることができる。
財務省が公表している新型コロナの影響による費用や損失は下記のとおりです。
・飲食業者等の食材の廃棄損
・感染者が確認されたことにより廃棄処分した器具備品等の除却損
・施設や備品などを消毒するために支出した費用
・感染発生の防止のため、配備するマスク、消毒液、空気清浄機等の購入費用
・イベント等の中止により、廃棄せざるを得なくなった商品等の廃棄損
記載しましたとおり、こちらについてはまだ正式な決定がなされていません。
しかし、青色申告をしていない会社であれば、新型コロナの影響による損失がないか確認しましょう。もし損失があるのであれば、その内容を帳簿に記載し正式決定後に還付請求できるように備えるのもひとつの手です。