社長や専務、常務などの役員に対しては、基本的に毎月同額の役員報酬が支払われます。
役員以外の一般の従業員には基本給のほかに、例えば残業した分に応じて手当などが支給されることもあり、毎月お給料の額は一定でないことが多いです。
しかし、役員には毎月同額が支給されます。
これは法人税法で定められているからです。
自由に役員報酬の額を変えることができれば、「今期は利益が出そうだ(法人税を抑えたい)から役員報酬を増やそう」また反対に「利益を大きく見せたいから役員報酬を減らしておこう」という利益の調整ができてしまいます。
そうさせないために、役員に支給する報酬については法律で細かく規定されています。
この規定を破って報酬の額を変更したらどうなるかというと、役員報酬として処理したうちの一部が会社の経費にならなくなり(=損金不算入)、法人税と所得税の二重課税になってしまいます。
それでは、一度決めた役員報酬の額は退任までずっと変えられないのか?
さらに、新型コロナウイルスの影響により売上が著しく減少したような場合であっても、報酬の額を変えることができないのか?
など役員報酬にかかわるルールを確認してみましょう。
報酬改定のタイミングは毎期1回やってくる
一度決めた役員報酬の額がずっと変えられないかというと、もちろんそんなことはありません。
期首から3月以内の改定は認められます。
例えば、下記の(例1)の通り3月決算法人の場合、5月の定時株主総会で役員報酬改定の決議がなされて、6月分から変更というケースは認められるということです。
(例1)減額が認められるケース
(例2)減額が認められないケース
(例2)の減額は期首から3月以内の改定でないので、認められません。6月から50万円になっていたとして10万円×5ヵ月(6月~10月)=50万円が経費にならないということになります。
途中で変えられる場合
基本的には役員報酬の改定は期首から3月以内のみです。
しかし「臨時改定事由」もしくは「業績悪化改定事由」が発生して、どうしても役員報酬の改定が必要になる場合には期首から3月以内でなくても認められます。
臨時改定事由とは、例えば副社長が社長になったなど地位が変更になった場合や役員が病気で入院してしまった場合などが挙げられます。
業績悪化改定事由とは、経営状況が著しく悪化したことなどやむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情があることをいうとされています。
例えば次の例が挙げられています。
① 株主との関係上、業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から役 員給与の額を減額せざるを得ない場合
② 取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において、役員給与の額を減額せざるを得ない場合
③ 業績や財務状況又は資金繰りが悪化したため、取引先等の利害関係者からの信用を維 持・確保する必要性から、経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに役員給与の額の減額が盛り込まれた場合
一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかったことなどは、業績悪化改定事由には該当しません。
会社の経営上、役員給与を減額せざるを得ない客観的な事情があるかどうか、経営者の恣意性がないかがポイントとなります。
新型コロナウイルスによる影響
飲食業や観光業については新型コロナの影響は大きく、売上げの激減と資金繰りの悪化により、役員報酬の減額を検討する経営者の方も多いかと思います。
当初役員報酬を決定した時点では、このような事態が発生することはもちろん想定できませんでした。新型コロナウイルスがいつ終息を迎えるのかも分からない状況で、やむを得ず行う役員報酬の減額には経営者の恣意性はなく、業績悪化改定事由に該当し認められる可能性が高いと考えられます。
しかし国税庁の解説にもあるとおり、
“役員給与の額を減額せざるを得ない客観的な事情を具体的に説明できるようにしておく必要があります。”
例えば、売上げが激減したことがわかる月次の試算表などを作成して保管しておくと、のちの調査の時に根拠資料として示すことができて安心です。